
1.はじめに
労働安全衛生法の改正により2015年に創設されたストレスチェック制度はこれまで、従業員50名以上を実施義務の対象としており、従業員50名未満の小規模事業場での実施は努力義務とされていました。しかし、施行から10年を経て大きな転換期を迎えています。
2025年5月の法改正により、従業員50人未満の小規模事業場に対しても本制度の実施が完全に義務化されることが決定しました。
小規模事業場では事業者等上層部と従業員の距離が比較的近いこと、ストレスチェックを実施するに当たり人手不足が懸念されることより、検討会を経て独自の実施マニュアルが厚生労働省より公開されました。本記事では3回にわたって当マニュアルの内容を分かりやすく解説していきます。
本制度の目的は、不調者の早期発見(二次予防)だけでなく、不調を未然に防ぐ一次予防にあります。労働者自身の気づきと、事業場による職場環境改善を両輪として進めることが、本制度の本質です。従業員一人ひとりの不調が事業場に与える影響がより大きい小規模事業場こそ、ストレスチェック制度について理解しメンタルヘルスケアを進めていきましょう。
(厚生労働省:小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルhttps://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001646587.pdf)
2. 導入の第一歩:衛生委員会による調査審議と8つの規定
制度を導入するにあたって、事業者が一方的にルールを決めることはできません。50人以上の事業場では衛生委員会において、50人未満の事業場では労働者の意見を聴取する場において、実務の詳細を調査審議する必要があります。ここで策定すべき社内規定には、以下の8項目を含めることが強く推奨されています。
- 制度の目的と基本方針:メンタルヘルス不調の未然防止を掲げ、不利益な取扱いの禁止を明文化します。
- 実施体制:誰が実施者(医師・保健師等)となり、誰が実施事務従事者(事務担当)を務めるかを明確にします。
- 実施方法:使用する調査票(標準的な57項目、職場環境改善を重視した80項目)や、高ストレス者の判定基準を決定します。
- 記録の保存:検査結果を5年間保存する場所や責任者を定めます。
- 情報管理:労働者の同意がない限り、結果を事業者が閲覧できない仕組みを規定します。
- 情報の開示・訂正手続き:労働者が自身の記録の開示を求めた際の窓口を定めます。
- 不利益な取扱いの防止:面接指導の申出等を理由とした解雇や不当な配置換えの禁止を徹底します。
- 附則:施行日や改訂の手続きについて記します。
3. 役割分担とプライバシーの厳格な保護
ストレスチェックの運用において最も重要なのが実施事務従事者の選任です。人事権を持つ上司や役員は、個人の検査結果を直接閲覧できる実務(データの入力や回収など)に従事することはできません。これは、結果が昇進や処遇に影響することを恐れて、労働者が回答を歪めてしまうのを防ぐためです。
また、外部委託(EAPやクラウドサービス)を活用する場合でも、事業者への結果通知は本人の同意が絶対条件となります。このプライバシー保護の徹底が、制度の信頼性を担保し、受検率を高める鍵となります。
4. 小規模事業場への強力な支援:地域産業保健センターの活用
義務化への対応に不安を感じる小規模事業場にとって、強力な味方となるのが「地域産業保健センター(地さんぽ)」です。地さんぽを活用すれば、医師による面接指導や健康相談を無料で受けることが可能です。特に、産業医の選任義務がない50人未満の事業場において、ストレスチェック後の医師面談は地さんぽが有力な選択肢となります。また、産業保健総合支援センター(産保センター)では、制度導入に向けた個別相談や、衛生委員会での講話支援なども行っています。これら公的リソースを早期に活用することで、コストを抑えつつ質の高いメンタルヘルス対策を構築することが可能になります。
5.まとめ
小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル解説、第1回は制度自体と事前準備についてお話しました。次回はいよいよ実際の実施プロセス、実務について解説いたします。
ストレスチェックサポートセンターでは社内規定のひな型作成、実施者、実施事務従事者業務もまるごと代行させていただきます。制度自体についてのお問い合わせもお気軽にお問い合わせフォームよりご連絡ください。



