従業員が50人に近づくと、突然「産業医を選任してください」と言われて戸惑いますよね。誰に、いつまでに、いくらで頼めばいいのか。この記事では、選任義務の基準から手続き、罰則、2026年8月施行の新ルールまで、総務・人事の目線で整理します。
この記事でわかること
- 産業医の選任が義務になる人数と「常時50人」の数え方
- 専属産業医と嘱託産業医の違い・規模別の必要人数
- 選任から労働基準監督署への報告までの5ステップ
- 選任しない場合の罰則と、2026年8月から始まった辞任・解任の報告義務
結論から先に:産業医の選任は、業種を問わず常時50人以上の労働者を使用する事業場の義務です(労働安全衛生法第13条)。事由発生から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告することが求められます。違反には50万円以下の罰金の定めがあります。
産業医の選任義務は何人から?
産業医の選任は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で、業種を問わず義務となります(労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令第5条)。
まず言葉の整理から。ざっくり言うと、産業医は「会社の健康管理を担当してくれる医師」です。
産業医とは、労働安全衛生法にもとづき、労働者の健康管理などを専門的な立場から行う医師です。健康診断結果のチェック、高ストレス者の面接指導、月1回程度の職場巡視などを担います。
相談者採用が進んで、来月には従業員が50人を超えそうです。産業医はすぐ探さないとダメですか?



はい、50人に達した日から14日以内の選任が必要です。医師なら誰でもよいわけではないので、早めに動きましょう。探し方も後ほど紹介しますね。
「常時50人」はパート・派遣も含めて数える
人数のカウントには落とし穴があります。パートやアルバイトも、継続して雇用していれば人数に含めます。週数日勤務でも「常態として使用している」なら対象です。派遣社員は、受け入れている派遣先の人数にも算入されます。
判定は会社全体ではなく「事業場ごと」
50人の判定は、本社・支店・工場といった事業場単位で行います。会社全体で80人でも、本社40人・支店40人なら、どちらの事業場にも選任義務は発生しません。まず確認すべきは、事業場ごとの人数。この整理だけで対応の要否がはっきりします。


専属と嘱託の違いと規模別の必要人数
常時50〜999人の事業場では、月1回程度訪問する嘱託産業医1名の選任で足ります。常時1,000人以上の事業場では、その事業場に専属の産業医が必要です(労働安全衛生規則第13条)。
自社がどこに当てはまるか、下の表で確認してみてください。
| 事業場の規模 | 必要な産業医 |
|---|---|
| 常時50〜999人 | 1名以上(嘱託で可) |
| 常時500人以上で有害業務あり | 1名以上(専属) |
| 常時1,000〜3,000人 | 1名以上(専属) |
| 常時3,001人以上 | 2名以上(専属) |
深夜業や坑内労働などの有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、1,000人未満でも専属産業医が求められます。従業員300名までの中小企業なら、実務上は嘱託産業医との月1回契約が標準形と考えて差し支えありません。
産業医になれるのは要件を満たした医師だけ
産業医は、医師であることに加えて、労働者の健康管理に必要な知識についての要件を満たす必要があります(労働安全衛生法第13条第2項)。日本医師会の産業医学基礎研修の修了者などが代表例です。知り合いの開業医に気軽に頼める、という話ではない点に注意してください。
産業医を選任する流れ【5ステップ・14日以内】
産業医の選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行い、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告することが求められます(労働安全衛生規則第13条)。
実際の進め方を5つのステップに分けて見ていきましょう。
パート・派遣を含めた事業場ごとの人数を確認します。候補探しの窓口は、地域の医師会、健診機関、産業医紹介サービスの3つが代表的です。50人到達の2〜3か月前から動くと余裕を持てます。
職場巡視の頻度、健康診断後の意見聴取、高ストレス者の面接指導など、依頼する業務範囲を明確にして契約します。嘱託の場合、報酬は月数万円〜が一般的な水準です。
選任後は「産業医選任報告」(様式第3号)を所轄の労働基準監督署へ提出します。産業医の資格を証する書面(研修修了証など)の写しの添付が必要です。電子申請(e-Gov)にも対応しています。
常時50人以上の事業場では衛生委員会の設置も同時に義務となります。産業医は委員会の構成メンバーです。詳しくは衛生委員会の設置義務と進め方の記事で解説しています。
産業医の氏名と業務内容を、掲示や社内ポータルで従業員に周知します。健康診断・ストレスチェック・職場巡視の年間スケジュールまで決めておくと、その後の運用が安定します。
なお、50人到達のタイミングでは、産業医だけでなくストレスチェックの実施と報告も義務になります。実施体制づくりまで含めて一度に片づけたい方は、外部の実施代行を使う選択肢もあります。迷ったら相談してください。
産業医を選任しないとどうなる?罰則とリスク
産業医の選任義務に違反した場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金の対象となります。
罰金よりも重いのは、その先のリスクです。産業医不在のまま、従業員が休職や労災に至ったとします。このとき会社は、安全配慮義務を果たしていたかを厳しく問われます。未選任の状態は、その説明を難しくします。
私が導入のご相談を受けるなかでも、「50人を超えたことに気づかず、労働基準監督署の調査で慌てて産業医を探した」という総務担当者の声を実際に聞いたことがあります。採用が好調な会社ほど、人数の確認が後回しになりがちです。
安全配慮義務が争われた実例は安全配慮義務違反の事例解説にまとめています。
【2026年8月施行】辞任・解任時の報告も義務化
2026年8月1日施行の労働安全衛生規則の改正により、産業医が辞任・解任・退任した場合にも、事業者が遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告することが義務化されました。
これまで産業医の交代は、衛生委員会への報告だけで済んでいました。今回の改正で「産業医の空白期間」が行政からも見える形になります。
実務のポイントは、後任を決めてから交代すること。契約更新の時期を年間スケジュールに入れ、辞任の申し出があれば即座に後任探しを始めてください。この段取りだけで空白期間はほぼ防げます。


50人未満で産業医がいない場合はどうする?
常時50人未満の事業場に産業医の選任義務はありませんが、労働者の健康管理を医師などに行わせる努力義務があります。無料で使える公的窓口が、労働者健康安全機構の地域産業保健センター(地さんぽ)です。
もうひとつ、50人未満の会社に大きな動きがあります。厚生労働省によると、2025年5月公布の改正労働安全衛生法により、令和10年(2028年)4月1日から、ストレスチェック制度が50人未満の事業場へも拡大されます(出典: 厚生労働省 ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策)。



うちは48人です。産業医がいないと、ストレスチェックはできないのでしょうか?



できますよ。実施者は産業医に限らず、外部委託先の医師などでも構いません。産業医探しと並行して、受検の準備を進める会社が増えています。
実際に当社へご相談いただく50人前後の企業では、「産業医探しとストレスチェック対応が同時に来て手が回らない」という悩みが目立ちます。当社は9年連続で健康経営優良法人に認定され、100社以上・最大20,000名規模の実施を代行してきました。実施者の確保を含めて、最短3日で受検スタートが可能です。
実施者の選び方は実施者の選定ガイドで解説しています。50人未満の義務化スケジュールは2028年義務化の完全ガイドを参考にしてください。


産業医の選任義務に関するよくある質問
担当者からよくいただく疑問をまとめました。気になるところだけでも確認してみてください。
- 産業医の選任では、パートも50人に数えますか?
-
数えます。産業医の選任義務を判定する「常時50人以上」には、継続して雇用するパート・アルバイトを含みます。派遣社員も派遣先の事業場の人数に算入されます。
- 産業医の選任は14日以内にする必要がありますか?
-
はい。産業医は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任することが求められます(労働安全衛生規則第13条)。常時50人以上に達した日が起算点になります。
- 産業医を選任しないのは違法ですか?
-
常時50人以上の事業場で選任しない状態は、労働安全衛生法第13条違反となる可能性があります。同法第120条により50万円以下の罰金の対象です。未選任に気づいた時点で、速やかな選任が求められます。
- 産業医の選任義務がない事業場はありますか?
-
常時使用する労働者が50人未満の事業場には選任義務がありません。ただし健康管理の努力義務はあり、地域産業保健センターなどの公的支援を無料で利用できます。
- 労働基準監督署への選任報告はどう行いますか?
-
「産業医選任報告」(様式第3号)に、医師免許や産業医研修修了を証する書面の写しを添えて、所轄の労働基準監督署へ提出します。窓口・郵送のほか、e-Govの電子申請も利用できます。
- 従業員50人未満で産業医がいない場合、ストレスチェックの実施者は誰に頼めますか?
-
ストレスチェックの実施者は、産業医に限らず、要件を満たす医師・保健師などであれば外部委託先でも担当できます。産業医がいない事業場でも、外部の実施代行サービスを使えば受検を始められます。
まとめ:50人到達の前に産業医と実施体制の準備を
産業医の選任義務のポイントを振り返ります。
- 常時50人以上の事業場は業種を問わず選任義務(事業場単位・パート含む)
- 選任は事由発生から14日以内、様式第3号で労働基準監督署へ報告
- 999人までは嘱託で可、1,000人以上は専属が必要
- 違反は50万円以下の罰金。2026年8月からは辞任・解任時の報告も義務化
50人の節目には、衛生管理者・衛生委員会・ストレスチェックの義務も一度に押し寄せます。全部をひとりで抱える必要はありません。面倒な実務は外部の力も借りて片づけ、本来の仕事に使う時間を取り戻しましょう。当社がその伴走役になります。
本記事は、9年連続で経済産業省「健康経営優良法人」に認定され、3〜20,000名規模・100社以上のストレスチェック実施を支援してきたストレスチェックサポートセンター編集部が、厚生労働省など公的資料に基づいて作成しています。
シー・システム株式会社は「健康経営優良法人2026(中小規模法人部門 ネクストブライト1000)」に認定されています。











