職場環境改善とは、ストレスチェックの結果を利用して集団分析を行い、浮かび上がった課題を解決することを指します。この一連の運用方法は、衛生委員会などで審議する必要があります。今回は事業者が実施すべき対応や職場環境改善の進め方、実践方法の一例などをご紹介します。
集団分析実施後に事業者に求められる対応
ストレスチェックや集団分析の実施後は、実施した結果を適切に活用していかなければ意味がありません。
事業者が行うべき主な対応を解説します。
高ストレス者が多い事業場や部署を特定する
まずは、高ストレスになっている人が多い事業場や部署を調べるために、集団分析の結果を確認します。
集団分析で算出される総合健康リスクという数字が、見やすい基準になります。
総合健康リスクは、ストレスチェックの結果を仕事のストレス判定図に落とし込んでいく時に使う数字を掛け合わせて割り出します。
この数字が100%以上になるほど、メンタルヘルスが悪くなるリスクが高くなるので、各部署や事業場の健康リスクを判断する時に役立ちます。
関連記事:【解説】集団分析における「仕事のストレス判定図」とは?
該当する部署や事業場を調査する
集団分析の結果から高ストレス者が多い部署や事業場を把握できたら、その部署や事業場で働く従業員たちにストレスの原因をヒアリングします。
この調査方法は、実際に現場で働いている従業員にしかわからないストレスの原因を知るのに効果的です。
ただし、従業員が話しやすい環境作りを行うことが大切です。周囲にヒアリングの内容が漏れないように、会議室等をあらかじめ抑えておきましょう。
そして、他の従業員に高ストレス判定が出たからヒアリングを受けているのではないかというような憶測を感じさせないよう、なるべく事業場の全員に対してヒアリングするとよいでしょう。
改善点を洗い出し、次年度に繋げる
ストレスチェック後には、衛生委員会などで振り返りの場を設けましょう。運用方法に問題がなかったか、採用したストレスチェック手法が適切だったかなどを議論し、次年度に向けた改善点を考えましょう。
また、従業員側の意見も大切にし、受検率を上げるためには受検者の視点から現実的な運用を目指すことが必要です。
関連記事:どういう組織?-衛生委員会とストレスチェックでの審議内容とは?
集団分析結果は5年間保存する
事業者側は集団分析結果の記録を、5年間保存することが好ましいと規定しています。
この規定は、集団分析には長期的な視野が求められ、経年変化を観察し、継続的な分析を行うことが重要であるためです。
罰則はないものの、より高い分析成果を求めるためには必要な対応と言えます。
ストレスチェック結果についても同様に5年間の保存期間が定められていますが、従業員の同意を得ている場合は義務であり、得ていない場合は推奨となっています。
関連記事:意外と重要?-ストレスチェックにおける同意書とは?
職場環境改善を行う上での取り組み3タイプ
集団分析結果を基にした職場環境改善には、複数の手法が存在します。
経営層や管理監督層など、推進する人物によって方法やメリット、デメリットが異なるため、それぞれの特徴を把握して適した手法を活用していくようにして下さい。
経営層主導型
事業場のトップが主導して職場改善の方針を定める形態です。特に、自社の課題が明確になっている場合はトップダウン型で大きな改善を進めることができます。
この方法の特徴としては、経営判断が必要な場合に迅速に対応できること、PDCAを回せるようになることが挙げられます。一方で、現場の従業員との距離が遠いために実情の理解にギャップが生じ、的外れな対応や展開を招く可能性があります。また、従業員の自発的な言動が制限され、受動的な姿勢に傾く可能性もあることに注意が必要です。
管理者主導型
その部署や事業場を最も理解する管理者が主導します。部署や事業場の課題に応じて、最適なアプローチが可能となります。
この方法は、従業員の特性や主体性を活かした取り組みの設計ができることや、管理者の自主性やマネジメント能力が向上することが特徴です。
一方で、取り組む際の対応が管理監督者の裁量内に限られることや、管理者の強い主観や独善的な言動が現れる可能性があることに注意する必要があります。
全従業員参加型
すべての従業員が参加する方法が、全従業員参加型です。性別や年齢、役職は関係ありません。
この方法は、外部の人間では見落としがちな細かい点まで注目し、効果的な取り組みにつなげることができることと、チームワークが向上することが期待できます。
ただし、人間関係にトラブルがある場合は円滑に進まないことや、意見が偏ってしまわないように、すべての従業員が参加するように促すことが重要です。
集団分析結果から読み取った場合の職場環境改善のアイデア
最後に、集団分析結果から読み取れる職場環境改善のアイデアを紹介します。
是非活用してみてください。
「仕事の量的負担」が高い数値の場合
仕事の量的負担の数値が高い場合、従業員が自身のキャパを超えた業務量を抱え込んでいたり、業務が最適化されていなかったりする可能性があります。
■職場環境改善の取り組み例
- 繁忙期以外の長時間労働や休日出勤の抑制
- リモートワークの導入
- 業務のマニュアル化
- フレックスタイムの導入
「仕事のコントロール」が低い数値の場合
仕事のコントロールの数値が低いということは、仕事における自由度や裁量が少ないことを意味しています。
■職場環境改善の取り組み例
- 小規模チームでの裁量権の拡大
- 自分なりのやり方で業務を遂行するための余地を作る
- やりがいや達成感が得られる業務の分担
- すべての従業員に正確な情報をわかりやすく提供すること
「上司の支援」が低い数値の場合
上司の支援の数値が低い場合は、上司とのコミュニケーションがうまくいかず相談がしにくい状況や、信頼関係が構築できていない状況であることが懸念されます。
■職場環境改善の取り組み例
- 上司は部下が相談しやすい雰囲気作りを心がける
- フリーアドレス等話しやすい環境を整備する
- 業務用SNSを活用してコミュニケーションを活性化させる
- 1:1のミーティングを週に1度行う
「同僚の支援」が低い数値の場合
同僚の支援の数値が低いのは、意思疎通の不具合が懸念され、連携不足による誤解や行き違いなどが生じるリスクが高まります。
■職場環境改善の取り組み例
- ランチ会などを設け、コミュニケーションの機会を意図的に増やす
- 問題が発生した場合に協力体制が取れるよう、上司が援助する
- 部署での目標やビジョンを明確にし、チームとしての一体感を高める
まとめ
今回は、事業者が実施すべき職場環境改善の進め方、実践方法などを紹介しました。
事業者はそれぞれの部署や事業場でどの方法が適切かを判断して、職場環境改善に取り組んでいきましょう。